表現の自由に関する判例の数々2

【集会・結社・表現の自由(21条)】
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

***【3】事前抑制 ************************

【北方ジャーナル事件(最判昭61.6.11)】
北海道知事選挙の候補者を侵害するような内容の記事を掲載した出版物を裁判所が事前差し止めしたことに対し、その出版社が損害賠償を求めました。

裁判では、裁判所の仮処分による事前差し止めは検閲にあたらないとしました。また、裁判所の仮処分による事前差し止めは原則許されませんが、表現内容が真実ではなく、被害者が重大で回復困難な被害を被るおそれがある場合には例外的に許されるとしています。


【税関検査事件(最判昭59.12.12)】
税関で輸入が禁止されている表現物に対し、憲法21条2項に違反するかが問題となりました。

裁判では、輸入される表現物は、既に国外で発表されているものであり、事前に発表そのものを禁止しているわけではないため検閲にはあたらない、としました。


【第一次家永教科書事件(最判平5.3.16)】
東大教授の家永三郎氏が、教科書検定は憲法21条に違反すると主張した裁判です。この裁判は、第一次、第二次、第三次と32年に渡る最も長い民事訴訟として知られ、ギネス世界記録に認定されています。

裁判では、教科書検定は全国一定水準にするために必要であり、発表を禁止するためのものではないため検閲にあたらないとし、表現の自由を制限するものではないと判断しました。

***【4】表現の規制 ************************

【チャタレイ事件(最判昭32.3.13)】
作家D・H・ローレンスの「チャタレイ夫人の恋人」を日本訳した作家と出版社社長に対し、度を超えた性的描写があるとして訴えた事件です。

裁判では、わいせつの定義に反するとして有罪判決としました。わいせつの定義とは「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされています。


【四畳半襖の下張事件(最判昭55.11.28)】
ある雑誌に掲載した性的描写のある文学作品に対し、わいせつ文書として問題とされた事件です。

裁判では、該当文書はわいせつの定義である「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」に当たるとしました。


【猿払事件(最大判昭49.11.6)】
北海道猿払村にある郵便局に勤める郵政事務官(被告人)は、自身が事務局長を務める労働組合協議会の決定により、ある党を支持する選挙用ポスター6枚を公営掲示場に掲示、および同ポスター184枚の配布を他者に依頼しました。これらが政治的行為にあたるとして起訴された事件です。

最高裁は、国家公務員法及び人事院規則が規定している公務員の政治的行為の禁止について憲法違反ではないとし、被告人を有罪としました。

つまり、公務員の政治的中立性は国民の信頼を確保するために重要であり、その中立性が損なわれる恐れがある政治的行為を禁止することは、違憲ではないと判断しました。


【愛知原水協事件(最判昭45.6.17)】
被告人らは、「第10回原水爆禁止世界大会を成功させよう、愛知原水協」と書かれたビラを電柱数十本に貼り付けました。これに対し、軽犯罪法1条33号「みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をした者」として起訴されましたが、憲法21条2項の検閲にあたるとして争った事件です。

裁判では、このようなビラ貼りの規制は、他人の財産権や管理権を保護するために必要であり、この程度であれば表現の自由の制限も必要かつ合理的なものとしました。


【屋外広告物条例事件(最大判昭43.12.18)】
大阪市屋外広告物条例は、大阪市の美観風致を維持するため屋外広告物の展示場所や方法を制限していますが、これが憲法21条に違反しないかが問題となりました。

裁判では、この程度の規制であれば、公共の福祉のため必要かつ合理的であるとし、憲法に違反しないとしました。

表現の自由に関する判例の数々1

【集会・結社・表現の自由(21条)】
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

***【1】報道の自由 ************************

【日本テレビビデオテープ押収事件(最判平元.1.30)】
リクルートコスモス社が楢崎弥之助議員のところに、政治家への献金事件の追及を緩めてもらうよう現金を渡しましたが、このやり取りを納めたビデオテープを捜査のために差し押さえられました。この差し押さえ行為が憲法21条に違反するものとして争われた事件です。

裁判では、憲法21条は十分尊重されるべきだが、そういった報道の自由はどんな場合にも制約を受けるものではない、というわけではなく、捜査遂行のため等一定程度の制約は許されるとし、違反しないと判断しました。


【博多駅取材フィルム提出命令事件(最判昭44.11.26)】
米原子力空母エンタープライズ号の佐世保寄港を阻止するため、その運動に参加していた学生と機動隊が博多駅で衝突しました。この様子を撮影したテレビフィルムが裁判所から提出命令を受けたことに対し、憲法21条に反していると争われました。

裁判では、取材の自由は十分尊重に値するが、公正な裁判を行うために必要とされる場合には制約を受けることもやむを得ないとしました。


【石井記者事件(最判昭27.8.6)】
汚職事件を起こした公務員が夜中に逮捕されましたが、この事件が翌朝の新聞に掲載されました。このことにつき、石井記者に情報を漏らした者がいるとして、捜査が開始されました。石井記者は記事の出所について宣誓および証言を拒否したため、証言拒否罪として起訴されました。

石井記者は、取材源の秘匿は憲法21条にある表現の自由を守るために必要なこととして反論しましたが、裁判所は、憲法21条は「言いたいことを言わせること」であり、情報源の秘匿を保障したものではないこと、公共の福祉のため必要であるべき証言の義務を犠牲にしてまで証言拒否の権利が保障されるものではない、という理由から石井記者を有罪としました。


【外務省秘密電文漏洩事件(最判昭53.5.31)】
1971年の沖縄返還協定に際し、毎日新聞の西山太吉記者が外務省の事務官をそそのかし、同省から機密文書を持ち出させたとして起訴された事件です。

西山記者は報道の自由を訴えましたが、裁判所は、取材の方法や手段などが正当な範囲を逸脱したものとして有罪判決を下しました。


【レペタ法廷メモ事件(最大判平元.3.8)】
アメリカ人弁護士が、研究のため法廷でメモを取っていいか裁判所に許可を求めたところ、許可が下りなかったため、憲法21条に対する侵害として訴えた事件です。

裁判所は、メモを取る行為は特段の事由がない限り自由であり、メモを取る権利は尊重に値する、としました。


【サンケイ新聞意見広告事件(最判昭62.4.24)】
自民党が日本共産党に対してサンケイ新聞に意見広告(有料)を掲載しました。これに対し日本共産党は、反論文を無料で掲載するようサンケイ新聞に要求、サンケイ新聞はこれを拒否したため争われました。

最高裁は、憲法21条は私人間には適用しないため、反論文掲載の請求権は認められないとしました。

***【2】集会の自由 ************************

【皇居前広場事件(最判昭28.12.23)】
メーデー会場の用途として皇居前広場の使用許可を申請しましたが、同場の管理者である厚生大臣はこれを不許可としました。これに対し、取消訴訟を提起した事件です。

皇居外苑の管理者は、公共福祉財産である同場を適正に管理すべきであり、これにより国民の利益を妨げる場合は違法を免れませんが、今回の不許可処分は公園の管理に著しい支障がある、他の国民の利用を妨げるなどの理由であるため、適正な運営を誤ったとは言えないとしました。


【上尾市福祉会館事件(最判平8.3.15)】
埼玉県上尾市(あげおし)で、労働組合幹部が合同葬を行うため福祉会館に使用許可申請をしたところ、この集会に反対する者の妨害などによる紛争を妨げるため不許可処分となりました。

裁判では、会館の管理者が不許可とできるのは、誰がみても明らかに支障が予測される場合であり、また、警察の警備をもってしてもなお混乱を防止することが難しい特別の事情に限り許されるとし、本件の不許可処分を違法なものとしました。


【泉佐野市民会館事件(最大判平7.3.7)】
関西国際空港の建設に反対する全関西実行委員会が、関西新空港反対全国総決起集会を開催するため、泉佐野市民会館に使用許可を申請したところ、「公の秩序をみだすおそれがある」として拒否されました。これを不服として全関西実行委員会が処分の取り消し、および損害賠償を訴えた事件です。

全関西実行委員会は、その実態が過激派団体であり、連続爆破事件を起こすなどの活動がありました。裁判では、グループのメンバーだけでなく、会館の職員や通行人、近隣住民などの生命や身体、財産などが侵害されるおそれがあるため、申請を拒否することは憲法21条に反しない、としました。


【新潟県公安条例事件(最判昭29.11.24)】
新潟県高田市で、許可を取らず集団示威運動を行ったことに対し、条例違反として起訴された事件です。

裁判では、一般的な許可制を定めることは事前抑制となり憲法に反しますが、公共の福祉に対する侵害を防止するためなどの目的で合理的かつ明確な基準を定めて許可制を取ること、公共の安全が危険にさらされると予見されるときは、集団行動を不許可とすることは直ちに憲法に違反するとはいえない、としました。


【東京都公安条例事件(最判昭35.7.20)】
ある団体が東京都からデモ行進を行う許可を得ましたが、蛇行進や渦巻行進、その他交通秩序を乱すような行為を禁止されていたにも関わらず、違反しました。

裁判では、集団行動は一瞬にして暴徒化する危険性があるので、公安条例で公共の秩序を維持するために必要かつ最小限に制限することはやむを得ない、としました。

信教の自由に関する判例の数々

【信教の自由(20条、89条)】
(20条)信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2項 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動をしてはならない。

(89条)公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便宜若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。


【宗教法人オウム真理教解散命令事件(最判平8.1.30)】
オウム真理教が毒ガスであるサリンを生成し大量殺人を計画したことに対し、検察官および東京都知事が解散命令を請求しました。このことが信教の自由に違反するかが問題となった事件です。

裁判では、オウム真理教が公共の福祉を害する行為を行ったこと(宗教団体の目的を著しく逸脱した行為なのは誰がみても明らかである)、解散命令はあくまでも法人格を失うだけで信仰そのものを妨げるものではないことなどを理由に、解散命令を認めました。


【信教の自由と加持祈祷治療(最判昭38.5.15)】
ある宗教の祈祷師が、精神病と思われる女性を治療するため、お線香の火をあてたり殴るなどの暴行を加えた結果、全身やけどや皮下出血を負い、急性心臓麻痺で死亡しました。

これらの行為が信教の自由として保障されるものかが争われましたが、裁判では人の人体に危害を及ぼし死に至らしめるような行為は著しく反社会的であり、信教の自由の保障を逸脱したものと判断しました。


【剣道実技拒否事件(最判平8.3.8)】
神戸市立工業高等専門学校に在学中の生徒が、信仰上の理由から剣道の実技を受講しなかったことに対し、校長は単位が修得できなかったことによる原級留置、および退学処分を行いました。処分を受けた生徒は、これらの処分が信教の自由を侵害するものとして取り消しを訴えました。

裁判では、受講できなかった生徒に対し、他の実技の履修やレポートの提出など代替措置を取り評価することは宗教に対する援助にあたるわけではない。また、学校側の処分は、裁量権の範囲を超えるものであるとして、生徒側の訴えを認めました。


【津地鎮祭事件(最判昭52.7.13)】
市の体育館を建築する際に行われた起工式で、神式の地鎮祭が採用されたことに対し、政教分離の原則に反するとして争われた事件です。

判決では、地鎮祭という行為が神道を援助、助長、促進するものではなく、他の宗教に対しても圧迫や干渉を与えるものではないことから、違憲ではないと判断しました。

また、裁判では、政教分離に反するか否かの基準として「目的効果基準」というものを示しています。目的効果基準とは、その行為の目的が宗教的な意義をもち、得られる効果が宗教に対して援助、助長、促進、または圧迫や干渉等となるようなものであれば、宗教的活動に該当する、とするものです。


【愛媛県玉串料訴訟(最判平9.4.2)】
愛媛県が、靖国神社に県の公金から玉串料を奉納したことに対し、愛媛県住民が憲法20条3項、および89条に違反するとして訴えました。

裁判では、愛媛県が支出した玉串料は、特定の宗教に対しての援助、助長、促進につながるとして違憲判決を下しました。


【砂川空知太神社事件(最判平22.1.20)】
北海道砂川市が神社に対して無償で土地を提供していることに対し、政教分離に反するとして争われた事件です。

裁判では、土地を提供することによって宗教的活動を行うことを容易にし、一般人の目から見てもその宗教に対し特定の便宜を提供、援助していると評価されると判断し、政教分離に反するとしました。

思想及び良心の自由に関する判例の数々

【思想及び良心の自由(19条)
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

【謝罪広告事件(最判昭31.7.4)】
名誉棄損による判決で、新聞紙に謝罪広告を掲載することを命じられましたが、それが思想及び良心の自由に反するとして争われた事件です。

裁判では、それが事態の真相を単に告白しただけであること、それに対し謝罪したのみにとどまること、という程度のものであれば19条に違反しないとしました。


【麹町中学校内申書事件(最判昭63.7.15)】
高校受験に必要な内申書に「麹町中全共闘と名乗り、文化祭紛争を叫んで学校内に乱入、ビラまきをした」などと記載されていたことが原因で合格できなかったとし、訴えた事件です。

これに対し、内申書に記載されていたことは単に外見的な行為にすぎず、思想信条を記載したものではないとし、訴えを退けました。


【三菱樹脂事件(最判昭48.12.12)】
三菱樹脂株式会社に3ヶ月の試用期間で入社したXは、その後の採用試験の際、在学中に学生運動をしていたことに対して虚偽の回答をしました。後日、そのことが会社側に判明したことにより本採用を拒否されました。

人を採用する際に法律など特別な制限がない限りは、原則として会社側の自由な判断が認められています。裁判では、思想や信条を理由に採用を拒否したとしても、それがただちに違法であるとは言えないとしました。


【君が代伴奏拒否事件(最判平19.2.27)】
小学校の音楽教師Xが、入学式の際「君が代」のピアノ伴奏を拒否したことを理由に戒告処分を受けました。Xは、伴奏の命令が思想及び良心の自由である憲法19条に違反するとして、処分の取り消しを求めました。

裁判では、ピアノ伴奏を命令することは憲法19条に違反するものではないとし、Xの請求を認めませんでした。

法の下の平等に関する判例の数々

【国籍法違憲訴訟(最大判平20.6.4)】
婚姻関係にない外国人女性と日本人男性との間に生まれた子の届け出をしたところ、父が出生後に認知したことを理由に(国籍法3条1項に違反するとして)、子の日本国籍取得を認めませんでした(胎児認知であれば認められる)。

これに対し裁判では、憲法が定める法の下の平等に反するとして、生後認知の国籍取得を認めました。後に、国籍法3条1項は改正されています。


【尊属殺法定刑違憲事件(最判昭48.4.4)】
父母や祖父母など尊属を殺害した場合、旧刑法では無期又は死刑という非常に重い刑罰が科せられていました。一方、普通殺人罪は懲役3年以上、無期又は死刑であり、その差が大きくありました。

そもそも尊属殺害に対する重刑は、尊属を保護するためにあるものとされています。しかし、それ自体は合理的としつつも、普通殺人罪と比較するとあまりにも重すぎるため、後に尊属に対する殺人罪は廃止されました。


【女性の6ヶ月再婚禁止期間違憲判決(最大判平27.12.16)】
女性は、6ヶ月の再婚禁止期間について、憲法14条の法の下の平等に違反するとして訴えました。これに対し最高裁では、100日を超える部分に関しては違憲であるとしました。


【売春等取締条例違反被告事件(最判昭33.10.15)】
売春の取締に関する条例について、地域によって内容に差が生じることに対して違憲となるかが問題となりました。憲法では、地方公共団体の条例制定権を認めており、地域格差が生じることはあらかじめ予期されていることから、条例により取り締まりに差があることは違憲ではないとしました。


【日産自動車事件(最判昭56.3.24)】
日産自動車にて、女子の定年を55歳、男子の定年を60歳と定めていることが差別による違法として問題となった事件です。裁判では、性別のみによる不合理な差別として無効判決を下しました。


【サラリーマン税金訴訟(最判昭60.3.27)】
事業所得者は必要経費の実額控除が認められていますが、サラリーマンなどの給与所得者には認められていないことに対し、憲法14条1項に違反するものとして争われた裁判です。

判決は、租税法の所得の性質が異なることによる取扱いの区分は、著しく不合理である場合を除き、憲法に違反するものではないとしました。