長沼事件控訴審(札幌高裁昭51.8.5)

この判例は、憲法前文が裁判規範性を有するかが問題となりました。

【判例内容】
航空自衛隊第三高射群基地を建設するにあたり、農林大臣が保安林の指定解除を許可しました。しかし、近隣住民が黙っていませんでした。憲法前文にある「平和のうちに生存する権利」に反するとして、解除処分の取り消しを求めたのです。基地の公害や、攻撃を受けるかも知れないなどの不安が出てくるのは当然ですね。

【判決】
高裁判決で否定されました。
つまり、憲法前文は法規範性はあるとされていますが抽象的であるため、裁判を行うほどの具体性はなく、よって裁判規範性は有しないとしたのです。

憲法前文に書かれていること

By: Kentaro Ohno

日本国憲法の「前文」を以下に掲載します。


(4)日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、(1)わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し(2)政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し(3)ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。(4)そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


※前文に振られているカッコ付きの番号は以下の説明と連動しています。

 

まず、前文には誰もが知る「三原則」」について明記されています。
(1)基本的人権の尊重・・・人間らしく生きる権利
(2)平和主義・・・戦争をしない、戦力を持たない
(3)国民主権・・・国の政治は国民が決める

また、日本は(4)代表民主制を採用していることについても明記されています。

このように、前文は、前文でありながらいくつかの基本原理を宣言しているので、憲法の一部と考えられています。つまり、法規範性があるものとして扱われているのです。